近年の生成AIの急速な発展により、画像やテキスト、さらには音声や動画まで自在に生成する技術が日常的に利用できるようになりました。生成AIを活用することは、利便性や生産性を向上させ、これからの時代の暮らしや社会の変容を導く可能性を秘めています。一方で、生成AIはその利活用における信頼性や誤用・悪用などの懸念やリスクも指摘されており、懸念やリスクへの対応とバランスを取りながら進めていく必要があります。
日本赤十字広島看護大学では、教育研究機関として生成AIを正しく利活用するため以下のとおり基本方針を定めます。
1 基本方針
(1) 生成AIの利活用
生成AIは、情報検索、データ分析、コンテンツ生成など多岐にわたる分野で活用されており、本学の教育活動においても、学習支援や教材開発への応用が期待される。これらの技術はSociety5.0を目指す国の方針と一致しており、適切な利活用によって教育の質を向上させることを目指す。
(2)利活用環境の整備
生成AIは急速に進化しており、その利用には情報の信頼性、プライバシー保護、著作権遵守など多岐にわたる課題が伴う。本学は、これらの課題を認識した上で、統一的なガイドラインや倫理的基準に基づき、利活用環境の整備を進める。
(3) 教育活動における具体的な対応
生成AIを教育活動に適用するにあたっては、以下の点を重視する。
- 活用の目的と意義を明確化し、リスクと効果を慎重に評価する。
- 学生の批判的思考力や創造性を維持・向上させる利活用方法を推進する。
- 適切な学内のガイドラインを策定し、それに基づいて利活用を進める。
- 利用状況や技術の進展に応じて方針を見直し、柔軟に対応する。
2 教育活動における利活用にあたっての懸念・リスク
生成AIは、大規模言語モデル(LLM)や類似の技術を活用し、膨大なデータを基に、テキストだけでなく、画像や動画を含む多様な形式のコンテンツを生成する技術である。これにより、語句や文章のパターンや関係性を学習するだけでなく、視覚的・音声的な要素を含む文脈を考慮し、適切なコンテンツを生成する仕組みを持つ。しかし、現時点では以下の懸念やリスクが指摘されている。
(1) 思考力・創造性・独創性への影響
生成AIを利用して課題の解答やクリエイティブな成果物を得る行為は、自ら情報を収集・検証し、論理的に思考して結論や作品を導く過程を省略するため、教育的および創造的な効果が限定的となる可能性がある。このため、生成AIの利用が人間の創造性や独創性に与える影響については、今後の研究成果を確認していく必要がある。
(2) 虚偽情報や不正なバイアスの発生
生成AIは、学習データの真偽を確認せずに応答やコンテンツを生成するため、虚偽の情報や不正なバイアスを含む可能性がある。これにより、誤情報の拡散や偏見の助長、さらには視覚情報による誤解や混乱が懸念される。このような生成AIに関する技術的限界を把握したうえで、生成物の内容の確認・裏付けが必要と考えられる。
(3) 個人情報・機密情報の不正取得・漏洩
生成AIは、入力された情報の適法性や適正性を判断しないため、個人情報や機密情報が不正に取得されるリスクが存在するとともに、生成AIへの入力を通じて機密情報や個人情報が意図せず流出する可能性がある。特に、画像や動画生成においては、プライバシーや肖像権の侵害が問題となる場合がある。教育現場では学生の個人情報保護が重要な課題となる。
(4) 著作権の侵害
生成AIは、学習データを基に生成したコンテンツが、著作権法に定める権利を侵害する可能性がある。画像や動画、音声を生成する場合も同様に、既存の著作物を模倣するリスクがあるため、教育機関においては著作権法第35条により授業の範囲内で利用することは可能であるとしても、広く公開する場合には著作権の許諾が必要であることに留意しなければならない。
3 看護学の学修との関係
看護学教育モデル・コア・カリキュラムでは、未知の課題に直面した際に、自ら幅広く多様な情報を収集し、創造性を発揮しつつ、倫理的・道徳的な判断や科学的根拠に基づいて課題解決を導く「根拠に基づいた課題対応能力」が求められるとされている。
本学では、この能力を損なうことなく育成するため、生成AIを補完的に活用する方針を掲げる。生成AIが提供する情報の信憑性を自ら検証する力を育てるとともに、倫理的かつ批判的な思考を促進する教育的なアプローチを検討する。また、生成AIの利便性を活かしながらも、学生が主体的に情報を選択し、自身の判断力を向上させることを重視する。これにより、生成AIの活用が教育目標の達成に寄与するよう取り組む。
4 学生の利活用に対する考え方
学生の利活用に関する大学の方針を整理し、別紙「生成AIの学習における利活用について」を技術の進展や社会情勢に応じて定期的に更新するとともに、学生に対して適切に周知する。
5 教職員の利活用に対する考え方
教職員は、「教職員用生成AI活用ガイドライン」を遵守し、生成AIに関するリテラシーの向上に努める。また、教育活動や業務において生成AIを利活用する際には、ガイドラインに基づき、リスクと効用を十分に見極めた上で適切に対応すること。
6 持続的な見直し
(1) 必要な環境整備への取り組み
本学は、生成AIの適切な利活用を推進するため、ルールの策定、技術的対応、教育・訓練など、必要な環境整備には定期的な見直しも含め積極的に取り組む。
(2) 方針の見直しと適応
生成AIの教育活動への利活用に関する方針は、技術の進展、知見の収集、利活用の効果検証、初等・中等教育における情報教育の進展状況などを踏まえ、環境整備の進捗に応じて適宜見直しを行い、最新の状況に対応する。